低温細菌は自然界に広く分布し、低温保存食品の品質をしばしば低下させる。低温細菌は加熱により容易に死滅するが、低温菌の生産する各種菌体外加水分解酵素は耐熱性が高く、食品の加熱殺菌後も残存する加水分解酵素により食品の品質は低下する。本研究では、細菌の増殖に必須な細胞壁合成系酵素であるアラニンラセマーゼを標的とする低温細菌の殺菌法を検討した。昨年度は、各種有機酸に対して、低温細菌が高感受性を示すことを見いだしたが、本年度は各種香辛料による低温細菌の殺菌法を検討した。24種類の香辛料から、70%エタノールを用いて各抽出液を調整し、低温細菌の増殖に対する影響を、常温細菌との比較で検討した。香辛料に対する感受性は、低温細菌の菌株によって異なったが、常温細菌に比べて低濃度の抽出液で増殖が抑制された。低温細菌の種類に関わらず、増殖を完全に抑制する条件を検討したところ、オールスパイス、ターメリック、ナツメグ、ローレルリーブスの抽出液を各0.016%濃度で混合することにより、用いた全ての低温殺菌の増殖は完全に抑制された。この香辛料抽出液の混合液は、官能検査において閾値以下の濃度であった。作用機構は、低温細菌の細胞膜が極めて高い流動性を有するため、膜局在性のある香辛料の揮発性油が低温細菌の膜構造を破壊すると考えられた。
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