本研究の目的は、DNAコンピューティングの一種である、アクエアス・コンピューティングに基づく超並列計算の枠組みのもとで、より高度で現実的な工学的応用の基礎となる、分子メモリの大容量化とその応用にある。本年度の成果は大きく分けて次の2つからなる。 1 DNA-PNA-PNAの3重鎖形成による3ビットメモリの実現 1本鎖DNAとbis-PNA(同じ配列のPNAを2本、短いポリマーで結んだ特殊な分子)による3重鎖形成現象について、実験条件を変化させて反応効率を調べ、基礎検討データを収集した。PNAの配列設計についていくらかの経験則が蓄積できたため、初年度に見られた極端な収率悪化は回避できた。研究者による天然酵素を用いた従来手法と同等の3ビットメモリを実現した。 2 メモリ状態の複製法の信頼性確認実験 萩谷らの鞭打ちPCR法の応用として研究者が初年度に提案した分子メモリの状態の複製手続きについて、信頼性確認実験を行った。そこでは鞭打ちPCR法により、DNAとbis-PNAが3重鎖形成した部分をスキップするように複製が行われるため、破壊書込みされたメモリーの状態が複製できる。複製された分子はDNAのみからなるので、随意に増幅することができ、後段の任意のDNAコンピューティングに受け渡すことができる。最も単純な1ビット分のスキップが起こることを確認した。 以上のように、実応用規模の分子メモリは実現できなかったが、当初計画と比較して成果1)は天然酵素に依存した従来法と同等の容量を実現し、成果2)はメモリアクセスの階層化などに結びつくため、大規模化のてがかりとなる成果であると考えている。
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