研究概要 |
平成13年度は、手書き漢字の悪筆度合いの定量化と眼球運動計測装置による判読時の注視点解析を中心に研究した.(1)まず230人の署名から選択した多様な特徴を含む528個の手書き文字を材料として,人の文字認知を反映した悪筆の定量化を試みた.材料文字から,33名の被験者の判定によって「良筆」・「悪筆」をそれぞれ50文字・45文字抽出した.この判定を外的基準として,文字の概形特徴と詳細特徴をとらえる10個のアイテム・21個のカテゴリーを説明変数とする数量化理論第II類による分析を実施した.その結果,相関比0.64,ミニマックス的中率90.8%という高い精度で「良筆」・「悪筆」の判別が可能であることが示された.数量化理論によって得られる個々の文字のサンプル数量が悪筆度合いの定量的指標である.この指標は,例えば活字体よりも人にとって「読みやすい」手書き文字もあることを定量的に示すことができたように,今後の研究遂行上きわめて有効である.この指標を用いて,様々な角度から悪筆文字の構造について分析した結果については,北海道心理学会・東北心理学会第9回合同大会および電子情報通信学会ヒューマン情報処理研究会において発表した.(2)上記の研究からも文字認識の際のくずれ字の抽出にとって重要と示唆される,文字の重心位置を解析し,電子情報通信学会ソサイエティ大会(情報システム)において発表した.(3)先の研究で用いた手書き漢字と活字体を材料として,眼球運動計測装置による判読時の注視点移動パターンの解析を行った.ここでは,文字を倒立提示して,人の文字認識の際の特徴抽出の様態を浮き彫りにしようと試みている.認識可能な悪筆度合の範囲・文字毎の固有の特徴や注視されやすい部分の分析から,人間にとっての文字判別特徴を明らかにすることを目指している.今後,これらの知見を工学的文字認識の前処理段階(正規化・特徴抽出)に適用し、認識精度を向上させたいと考えている.
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