船舶航行の安全を確保するうえで海上における見張りが重要であるとの認識にたち、操船時の見張り者の機能を多角的に検討している。H14年度は見張り者が処理できる情報の量を明らかにするため、一度に把握できる情報量、すなわちインフォメーションキャパシティ(以下IC〕と情報環境の関係を明らかにすることを課題とした。ICは一目で把握することができる対象の数であるSpan of Attention(or Perception)と概念との照合が可能な数であるSpan of Immediate memoryが指標になるが、本研究では前者を対象にした。これに関する先行研究は、刺激が全て同じパターンで構成されており、実際の複雑な視環境における問題解決には使えない。そこで、実験では均一の刺激群に異質なパターンを加えることによってICが低下する様子をさまざまな状況を設定して明らかにした。すなわち、パターンの大きさ、色を変えた場合、1つのパターンに動き成分を加えた場合などを対象にしてICを求める実験を行った。その結果、均質なパターンの中に1つでも異質なパターンが加わると、均質なパターンで構成されたし劇を対象にして得られるICより確実に低下することがあきらかになった。これは注意の配分が異質なパターンに集中することに基づくものであり、海上における見張りに投影して考えると示唆されることが極めて多い。海上では航行を妨げる対象は必ずしも均質ではない。むしろ多種多様である。見張り者の視野内に動く対象があればICは低下する。目立つ色彩があってもICは低下する。大きな視対象があれば通常把握できる対象の数が少なくなる。いずれも安全な航行を妨げる対象(障害物)の把握に関する見張り者の機能低下を意味する。 実験室におけるICに関する実験に加えて、実際に航行中の船橋において、海上にある視対象をどの程度把握できるかをマグニチュードエスティメーション法で測定することを試みている。熟練した見張り者と初心者の違いを明らかにすることが目的である。
|