核融合炉プラズマ対向壁における水素リサイクリング評価のための基礎研究として、プラズマから飛来する低エネルギー水素原子の速度分布と、その水素原子が金属表面で反射した後の速度分布を、飛行時間法(TOF)によって実験的に調べた。 水素原子をTOF測定する場合、電荷を有しないため、電場によるバンチを行うことはできない。また、帯電させて検出する方法は効率が低く、他の原子や分子による信号も含まれてしまう。そこで、微小な開口部を持つ羽根を回転させ、光学的にスタート信号を取り出し、四重極質量分析計と二次電子増倍チャンネルを組み合わせたユニットで、目的とする種類の粒子のみによるストップ信号を取り出す、新しいTOFシステムを開発した。 このシステムにおいては、回転羽根のスリットが開いている時間が有限であるために、粒子の時間差にスリット開口時間が重畳するデータが得られる。そこで、シミュレーションを併用して、元の粒子速度分布を求める解析手法を確立した。 以上の開発により、RFプラズマから飛来する単原子水素イオンの速度分布を測定した結果、平均自由行程が長い場合には、約1万度のマクスウェル・ボルツマン分布で近似できることが判った。RFプラズマは無電極放電のために、イオン温度を測定することが困難であるが、本研究によって開発したシステムを用いれば、測定ができることが示された。次に、プラズマから飛来する単原子水素イオンをステンレス鋼に反射させた後の速度分布を測定した結果、エネルギー反射係数は80%程度であり、反射によってあまりエネルギーを失わないことが判った。また、室温程度の熱化した水素イオンも反射粒子の中に含まれていることが示された。 本研究の成果は次の通りである。先ず、1eV程度の低エネルギー水素粒子の反射に関するデータは僅少であり、貴重な知見を得ることができた。次に、エネルギー反射係数の値は原子間の二体衝突モデルによって説明できないことから、反射過程は分子状の仮想的な塊を考慮しなければならないことが判った。更に、イオンのまま反射する粒子が有意に存在したことから、荷電粒子の中性化確率は、従来のデータの外挿から予想されるほど小さなものではないことが示唆された。
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