研究課題/領域番号 |
12480156
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
丹羽 太貫 京都大学, 放射線生物研究センター, 教授 (80093293)
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研究分担者 |
加藤 友久 京都大学, 放射線生物研究センター, 助手 (50301247)
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キーワード | 非標的突然変異 / 遅延突然変異 / マウス初期胚 / DNA合成抑制 / 色素上皮細胞 / pink-eyed unstabel allele / p53-遺伝子 / ゲノムクロストーク |
研究概要 |
放射線で誘発されるゲノム不安定性による突然変異は、非標的突然変異(untargeted mutation)と遅延突然変異(delayed mutation)という2つの特徴を持っている。この両表現形は、DNA損傷検知機構、損傷シグナル伝達機構、突然変異実行機構、および損傷記憶機構の4つの機構よりなる。本年は、非標的突然変異が放射線で誘発されることを明かにすることを目指し、照射精子から生まれた次世代マウスでの雌親由来pink-eyed unstabel allele(p-un)の復帰突然変異を指標に解析を行った。このalleleの復帰突然変異により野生型の遺伝子が回復した場合、色素細胞は黒色になり、眼の色素上皮において黒色のスポットを形成するが、このスポットは父親マウスの精子期の照射で有意に上昇した。またスポットの大きさの解析から、この突然変異頻度の上昇は、眼の色素上皮細胞の発生・分化の全ての段階においてみられることが明らかになった。すなわち、精子に対するDNA損傷の記憶は、個体発生の過程で長期間保たれている。現在p53ノックアウト系統について同様の実験を行っている。 上記の不安定性誘導は、雄親由来ゲノムと雌親由来ゲノムとのクロストークが存在することを示している。ゲノムクロストークを直接解析するため、照射精子で受精した1細胞期胚での胚についてしらべたところ、雄性核のみならず雌性核においてもDNA合成の抑制が認められた。この精子照射による1細胞期胚でのDNA合成の抑制は、p53ノックアウトにおいては見られず、これがp53遺伝子に依存したゲノムクロストークの結果として生じることが明らかになった。p53遺伝子については、これまでG1/S checkpointとG2/M checkpointに関連する機能が知られていたが、今回の結果は、S phaseにおいてp53がDNA合成の抑制に関わることが明らかになった。照射精子受精1細胞期胚では、p53依存性のDNA合成抑制により、DNA量が正常レベルに達しないが、それにも関わらず胚盤胞まで発生は正常に進行し、その後内細胞塊がアポトーシスを起こして排除される。すなわち初期胚においては、遅延アポトーシスが存在する。また、p53ノックアウト胚においては、DNA量は精子に対する照射による抑制を示さないにも関わらず2-4細胞期において全て分裂が停止する。すなわちいまだにその機構は明かではないが、p53はDNA合成抑制を通してゲノム防御を行っているようである。
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