研究概要 |
神経変性疾患で傷害された神経細胞の修復が可能になる薬物開発を目指して,平成14年度は無血清培地下でのラット胎仔大脳皮質初代神経培養系を用いて天然物由来の新たな神経突起伸展促進および神経細胞保護作用物質の探索,それらの効率的合成法の開発,今までの研究で見いだされた神経突起伸展物質の作用機構の解明研究を行った。さらに,本研究で見いだされた神経突起伸展活性天然物が老化促進マウスの脱落神経細胞に対する影響について検討した. 1.活性化合物ホーノキオールとネオビブサニンは昨年度購入した顕微鏡デジタル画像解析システムと本学設置共焦点レーザー顕微鏡解析システムを用いて細胞内カルシュウムイオン濃度変化について検討した.その結果,ホーノキオールはPLC-IP3活性化によって細胞内カルシュウムイオン濃度を上昇させる.一方,ビブサニンによる細胞内カルシュウムイオン濃度上昇は,ホーノキオールとは異なる細胞外カルシュウムイオンに依存していることが明にできた.また,各種阻害剤を用いて細胞内情報伝達機構の関与について検討した結果,ホーノキオールはRTK, MAPK細胞内シグナル伝達系を活性化していることが示唆された.さらに,これらキナーゼ分子のリン酸化状態をWestern blottingで確認することができた。現在,各種蛍光プロープを駆使してホーノキオールが作用する標的分子の解明に挑戦している. 2.神経突起伸展活性を示すネオビブサニンおよびメリラクトンAの合成は連続Stille-Heck反応によってAB環構築に成功した.再度,同反応の適用が成功すれば,両化合物の効率的合成が達成できると確信している. 3.精力的な探索研究から,神経突起伸展促進活性物質9種,生存維持活性を示す化合物6種が新たに見出された.特に,今回アミロイドβ蛋白が誘発する神経細胞死(アポトーシス)抑制活性物質が見出され,今後の展開が期待される. 4.老化促進(SAM)マウスに対するマグノロール(ホーノキオール類似体)の2ヶ月間連続投与実験において,海馬のCA1領域の神経線維脱落が抑制されることが分かった.以上,本研究で見出された低分子神経栄養因子様物質は,神経変性の抑制および機能修復の可能性が示されたことから,今後,詳細な神経変性疾患モデル動物を用いたこれら化合物の薬理学的研究に移る計画である.
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