研究概要 |
本研究は計画に従って着実に進展した。特異な性質をもつ種々のDNAフラグメントのX線解析では予想以上の成果を得た。配列(gcGXYZgc)の(XYZ)に変異を入れることによる構造変化と陽イオンの影響を調べた結果、XとYは4種類のどの塩基に置換しても塩基積層型二重らせん構造を採ることを、ZをA以外の塩基に置換すると塩基積層型二重らせん構造が採れなくなることを見出した。この事実は、50年前にWatsonとCrickが提案した塩基対型逆平行二重らせん構造とは全く異なる新しいタイプの構造が生理的条件下でも安定に存在しうるという衝撃を与えた。また、この二重らせん構造は陽イオンの種類によって、ヘキサミンコバルトイオンの存在下ではDNA鎖6本が会合したduplex-trimer(六重らせん構造)を、カリウムイオン存在下では塩基対型逆平行二重らせん構造を基盤にして八重らせん構造を造ることを発見した。さらに、この八重らせん構造はカリウムイオン濃度が少し高くなると四重らせん構造に開裂することも明らかにした。このような巨大な会合体は、最近のゲノム解析によって見出された特定配列の多リピートが造る構造である可能性も高い。たとえば、ヒトVNTRでは類似の配列が8回繰り返されている。このリピートが塩基積層型二重らせん構造を単位としてダブル・ギリシャ・キー・モチーフによって折れたたまれる可能性を提案した.アジア結晶学連合国際会議(豪ブルーム)と核酸化学シンポジウムおよび日本結晶学会年会で発表した結果,国際結晶学連合よりIUCr賞を受賞した.これらの発見をさらに発展させ、生物学的意義を確認するための構造研究を進める必要がある。
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