研究概要 |
スフィンゴシン1-リン酸(SIP)は当初、細胞内シグナル分子として考えられたが、細胞外シグナルとしても機能することが、我々をふくめた国内外のグループから報告され、現在、我々が見出したEdg-6を含め5種(Edg-1/S1P1,Edg-3/S1P3.Edg-5/S1P2,Edg-6/S1P4 Edg-8/S1P5)のG蛋白連関型S1P受容体が同定されている。本研究ではS1P定量法を確立し、その機能と作用機構に関して解析した。 1.新規のS1P定量法を確立し血中レベルを測定したところ、その濃度(400〜900nM)は受容体の親和性(2〜30nM)をはるかに越え、生体では過剰な受容体活性を抑える何らかの機構が想定された。S1Pの血中分布を調べたところ、S1Pはリポ蛋白質画分に結合していることが判明し、このリポ蛋白質との結合が、S1Pの実質有効濃度を低く抑え、受容体の過剰な刺激から細胞を保護していると推定した。 2.また、S1Pは血中でリポ蛋白質に強く結合していることを見いだした。リポ蛋白質は血管細胞機能と密接に関連していることが知られており、血管内皮細胞の生存保護、遊走促進作用を取り上げ解析したところ、高密度リポ蛋白質(HDL)によるこれらの作用はS1P受容体Edg-1ならびにEdg-3受容体を介していると結論した。このように、リポ蛋白質作用のメディエーターという新しい観点からS1P機能と病態との関連が想定された。 3.神経系にもS1P、LPA受容体が分布しているが、その機能は不明である。本研究ではアストログリア細胞、C6グリア細胞を用い、Edg-1(Erk系を介した神経細胞栄養因子であるbFGFの発現),Edg-5(カルシウム、ホスホリパーゼC, Dの活性化)の機能分担、また、これら神経系の細胞でもリポ蛋白質作用の一部がS1P/S1P受容体を介していること等を明らかにし、中枢神経系においてもリポ蛋白質作用のメディエーターとしてS1Pが機能していることが推定された。
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