本研究の目的は、クロマチンの構造変換(クロマチンリモデリング)機構の一翼を担うクロマチンシャペロン群を包括的に同定・単離し、分子レベルおよび細胞レベルでの機能発現機構、機能調節機構および機能分担を明らかにすることにある。本年度はまず、クロマチンシャペロンとしてすでに同定が完了しているTAF-Iに加えて、TAF-IIとTAF-IIIの精製を行った。単離されたTAF-IIは、その抗原性およびタンパク質の性状と活性から、すでに報告のあるNAP-I(Nucleosome Assembly Protein-I)と同一であることが判明した。TAF-IIIについては、プロテアーゼによる部分分解産物の質量分析とそれに基づくcDNAのクローニングにより、ヌクレオフォスミン/B23であることが明らかとなった。それぞれについての各種変異型因子を用いた解析から、いずれも酸性アミノ酸に富んだ領域が活性発現に重要であることが示された。またこれらの因子は、クロマチンのリモデリングを促進するのみならず、クロマチンの集合反応も促進した。クロマチンの構造変換に関る因子という点から特に細胞周期での量および活性の変動に着目して解析をすすめた。TAF-Iについては、細胞周期を通じてその量は一定であったが、M期で著しく活性を失っていた。この原因の1つは、cdc2キナーゼとは異なるM期特異的なキナーゼによるリン酸化と考えられた。クロマチンシャペロンが発現に関る遺伝子群の同定については、まず手掛かりの得られているTAF-Iについて、TAF-Iによって変動する遺伝子群の解析を開始した。TAF-Iの過剰発現を誘導できる細胞を構築し、これとその親細胞を比較しながらcDNA発現整列ライブラリー(cDNA array)を用いて解析を行ったところ、TAF-Iにより発現レベルが変動する遺伝子群の存在を認めた。現在、さらにSAGE法などを用いて、詳細を調べているところである。
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