本研究計画では、蛋白質フォールディング機構解明を目的として、以下の研究を行う。 高圧条件下でのジュール熱方式温度ジャンプ法を用いて、スタフィロコッカル・ヌクレアーゼ(SNase)、α-ラクトアルブミン(αLA)及びカルシウム結合性リゾチームの巻き戻り速度過程をマイクロ秒からミリ秒の時間域で追跡する。 αLA、カルシウム結合性リゾチーム及びSNaseを対象に、フォールディング過程の原子レベルでの記述を行う。そのため、分子動力学法による高温下(400〜600K)でのアンフォールディング・シミュレーションを行う。 本年度の研究により以下の成果が得られた。 (1)高圧温度ジャンプ装置を蛍光スペクトルによる検出可能なように改良した。温度ジャンプの性能を、温度上昇によりpHが変化しやすいトリス緩衝液(+10℃でΔpK_a〜-0.28)と蛍光pH指示薬BCECFを組み合わせて確認した。この装置の性能をまとめると、不感時間は80-200μs、温度上昇幅は4-7℃で、温度上昇後に温度が一定に保たれている時間は250ms-500msであった。 (2)温度ジャンプによる蛋白質のフォールディング反応を実現するため、SNaseの高圧条件下での低温変性反応を調べた。1000barの高圧条件下で-5℃まで温度を下げたが、この条件下では低温変性していないことがわかった。 (3)プロリン含まない疑似野生型SNaseの巻き戻り反応には並行フォールディング経路のあることがわかっているが、並行フォールディングの原因として(i)変性状態における遅い異性化反応、(ii)変性状態からの反応経路が複数に分岐するの2通りが考えられる。ストップトフロー・ダブルジャンプの実験により、後者であることが明らかになった。 (4)ヤギαLAの分子動力学によるアンフォールディングシミュレーションの結果、組換え体に付加しているN末端のメチオニン残基により、常温においてもN末端近傍の揺らぎが著しく大きくなることがわかった。今後、NMR等の実験等によりこれを確かめる必要がある。
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