本研究は、脳解析のモデル系であるキイロショウジョウバエの、脳全体の詳細な神経回路図を作成する長期計画の基盤となる最初の期間として、脳の感覚情報の入力処理部に注目し、細胞の網羅的な同定を目指している。そのために、4500を超えるGAL4エンハンサートラップ系統をスクリーニングして、一部の神経細胞のみを特異的にラベルする系統を選び、細胞の同定作業に用いる。一次スクリーニングでは、固定・染色なしに細胞の形態を観察できるGFPの遺伝子をUASにつなげたレポーターを持つ系統を、各GAL4系統と掛け合わせ、成虫の脳を解剖して取り出して蛍光顕微鏡で観察記録している。高感度高解像度のCCDカメラを導入し、フィルム写真でなく電子データとして直接画像の取得・保存を行なうことで、データ記録作業の大幅な効率化を図った。この結果12年度は、通算3400のGAL4エンハンサートラップ系統についてGFP蛍光脳標本の光学切片撮影を終了し、計10万4000枚の画像をサーバーに蓄積して、研究室の全コンピューターから自由に閲覧できるシステムを構築した。これらの画像を比較検討してスクリーニングした結果、各感覚情報の処理領野内部の局所介在神経、そこから高次領野に伸びる神経線維、各種のグリア細胞、神経幹細胞などを特異的にラベルする系統を多数見いだした。一部の系統については共焦点顕微鏡による三次元再構成を行ない、ラベルされた細胞の形態の詳細な解析を行なった。
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