本研究では、さまざまな方法を用いて神経細胞分化誘導因子としてのHu蛋白質の機能発現機構を解明することを目的とした。本年度は、まず、Hu蛋白質の標的遺伝子(相互作用するmRNA)の同定を試みた。Hu蛋白質のRNA結合特異性から標的と予想されるmRNAを、HuDを過剰発現させたPC12細胞とHuRを過剰発現させたPC12細胞のそれぞれに発現させた。これらの細胞から抽出液を調製し、免疫沈降法によって、標的と見なされるmRNAが共沈してくるかどうかを検討した結果、神経特異的Hu蛋白質と効率良く相互作用するものは見いだせたものの、HuRにもある程度結合するなどの点で特異性に疑問が残った。この実験系にはいくつかの技術的問題が残されているので、現在改良を加えている段階である。 次に、Hu遺伝子の線虫オルトログ遺伝子の変異株を用いた分子遺伝学的解析を行った。線虫exc-7(rh252)変異は、最近の解析でHu遺伝子の線虫オルトログ遺伝子に突然変異部位がマップされることが明らかになっていた。そこで、exc-7(線虫Hu)遺伝子にどのような突然変異が起きているのかを調べるとともに、この変異体の表現型を詳細に調べた。その結果、確かにexc-7遺伝子内に約300塩基の決失が生じており、そのためにスプライシング異常が起きていることを見いだした。このスプライシング異常は1番目のRNA結合ドメインの欠失を引き起こすことが予想された。また、exc-7(rh252)変異によって、線虫の排出器官であるcanalの形成不全が起きていることを見いだした。このことは、神経細胞形成とcanal形成に何らかの機能的関連があることを強く示唆している。
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