Hu蛋白質は、ヒト小細胞肺がんに付随して神経変性を引き起こす自己免疫疾患の抗原として単離されたRNA結合性の蛋白質である。脊椎動物では、現在までに4種のHu蛋白質が単離されており、そのうちの3種HuD、HuC、HuBが特に神経細胞で強く発現していることがわかっている。Hu蛋白質のショウジョウバエホモログであるELAV蛋白質がハエの神経細胞分化や維持に必須であることから、これらHu蛋白質もまた脊椎動物の神経系で重要な働きをしていることが予測されている。本研究では、このHu蛋白質間相互作用について詳細な解析を行った。その結果、Hu蛋白質間相互作用が細胞質RNAの存在によって増強されることが明らかになり、RNA結合型のHu蛋白質が互いに効率良く相互作用している可能性が示唆された。また、in situケミカルクロスリンク解析を行った結果、神経特異的Hu蛋白質の1つであるHuDが細胞内でホモ2量体および3量体を形成していることが明らかになった。さらに、こうしたHuD多量体が特異的なRNA結合能およびHu蛋白質結合能を持つこともわかった。これらの結果から、HuDは細胞内でmRNAと複数のHuDから成るRNA-蛋白質複合体を形成していることが予想された。また、神経系培養細胞内においてHuDが細胞質に顆粒状に局在しているのに対し、相互作用活性の弱いHuD変異体が細胞質に均一に局在していた。これらの結果を総合して考えると、細胞内で観察されたHuDを含む顆粒状構造は、HuDの多量体やその標的mRNAを含んだ巨大RNA-蛋白質複合体によって形成されていることが予想され、HuDによる転写後の遺伝子発現制御の場として機能している可能性が考えられた。
|