研究概要 |
本研究は、単純な神経系をもつ線虫C.elegansを用い、遺伝学・分子生物学的手法により、行動の遺伝的基盤を解明することを目的とする。本年度は主に、我々が分離した行動変異体の遺伝子について、抗体染色法等により遺伝子発現部位を、種々のプロモーターを用いた細胞特異的強制発現により機能に必要な発現部位を調べ、以下の結果を得た。(a)合成dauer構成性変異により同定されたsdf-13(Tbx2ホモログ)遺伝子は、AWC神経で感じる匂い物質への走化性の順応に必要だが、AWC,AWB,ASJ感覚神経と多数の咽頭の神経で発現する。また、AWC,AWB,I1という3種の神経での発現で、順応には十分である。(b)flr-2遺伝子は、腸で働くクラス1flr遺伝子群の変異表現型のうち、成長速度遅延と感覚情報処理異常を抑圧する。この遺伝子は、少数の頭部神経で発現する。(c)匂い物質への走化性よりも銅イオンの忌避を優先するut236変異の原因遺伝子は、LDLaドメインをもつ分泌蛋白質をコードし、連合学習にも関係する。この遺伝子は、AIY介在神経およびASE感覚神経で発現する。過剰発現の場合は、AIYのみ、ASEのみ、あるいは胴体の触覚神経での発現でも機能に十分だが、筋肉での発現では機能しない。これらの遺伝子発現研究の他に、種々の行動変異体原因遺伝子のクローニングに向けた遺伝子地図の精密化、脱糞周期に対する様々な薬剤の効果とそれに対するクラス1flr変異の影響、合成dauer構成性変異やその抑圧変異の組合せを解釈するためのブール代数理論の整備等の研究を行った。今後、これらの研究を基盤として、感覚情報処理を中心に、行動のメカニズムを分子レベルで解明する予定である。
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