研究概要 |
本研究は、当研究室で分離した線虫C.elegansの変異体を用い、主に分子生物学的手法により、感覚器官amphidで受容される信号の情報処理機構を解明する。本年度は、以下の結果を得た。(a)sdf-14変異は、unc-31(CAPS)変異の存在下で耐性幼虫形成制御を異常にするが、その遺伝子は多剤耐性蛋白質MRP1ホモログをコードする。sdf-14変異体でヒトMRP1cDNAをsdf-14プロモーター制御下で発現させると表現型が野生型に、これにヒトMRP1阻害剤を加えると変異型になる。SDF-14はヒトMRP1同様、細胞内物質の排出に働くらしい。(b)クラス1flr変異の成長遅延・感覚異常を抑圧するクラス2flr変異(flr-2,flr-5)は、寿命を短くする。培養細胞を用いた発現クローニングにより、FLR-2蛋白質と結合するC.elegans蛋白質を同定した。また、新たな2クラスflr変異を8つ分離した。(c)感覚統合を調節する分泌蛋白質HEN-1の受容体として、ショウジョウバエとの相同性から、TyrキナーゼSCD-2が候補になった。scd-2遺伝子は数種の神経細胞で発現し、その変異体がhen-1変異体と同様の感覚統合異常・学習異常を示した。(d)餌とブタノンによる学習が異常なut305変異の遺伝子は、新規の膜蛋白質をコードする。機能的GFP融合遺伝子はAIA介在神経細胞と多数の咽頭神経細胞で発現するが、AIAの破壊はut305と似た学習異常を引き起こした。また、AIA,AWCのいずれかを含む細胞群で野生型遺伝子を発現させるとut305変異体の機能回復が生じた。(e)忌避物質などで持続的に刺激した際の行動の変化を調べ、鋭敏化、虫の集合などが起こる条件を見つけた。
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