本研究の対象である新規タンパク質をデータベース等を用いて解析したところ、大腸菌のGTP結合タンパク質E.coli Ras-like protein(ERA)と高い類似性を見い出し、そのヒトおよびマウスホモログであると結論した。大腸菌ERAは大腸菌の増殖および分裂に必須であることが報告されている。一方、脊椎動物細胞由来ERAの生理機能は不明であったが、脊椎動物細胞においても増殖、生存に深く関与すると予想した。そこで脊椎動物細胞由来ERAの生理機能およびその分子メカニズム解明を目的として研究を行い以下の成果を得た。 1.ニワトリB細胞由来DT40細胞株を用いて、脊椎動物由来ERAタンパク質を欠損した細胞株樹立を試みた。しかしながら、目的とするERA欠損株は得られず、ERAが脊椎動物細胞の増殖に必要不可欠なタンパク質であることが示唆された。そこで、テトラサイクリン応答性ERA発現ベクターを導入した細胞株を樹立後、era遺伝子欠損を行い、内在性ERA欠損細胞株を樹立した。得られた細胞株にテトラサイクリン誘導体を添加し細胞内ERAを完全に欠失させたところ、細胞増殖能の顕著な低下とそれに伴う細胞死が観察された。以上の結果より、ERAは細胞の生存に必須であり、細胞増殖を正に制御する可能性を持つと結論した。 2.Yeast two-hybrid法を用いERA結合タンパク質を検索した。その結果、RNA結合タンパク質であるhnRNP H、細胞分裂期に紡錘糸での局在が報告されているmitotic spindle associated protein(Astrin)、あるいは低分子量Gタンパク質RasのGTPase活性化因子に類似した未知タンパク質が得られた。これらのタンパク質とERAの生理機能との関連は今後の検討課題である。
|