本研究の目的は、通常GPIアンカーを有するプリオン蛋白のGPIアンカーシグナルを無効にさせるナンセンス変異を導入し、分泌型のプリオン蛋白を発現するトランスジェニックマウスモデルを作製することである。既に、マウスのプリオン蛋白のコドン231をストップコドンとしたトランスジェニックマウスを作製し、多数のアミロイド斑をもつモデル動物の開発に成功しているが、この分泌型マウスプリオン蛋白は、低発現量の場合感染因子接種後の潜伏期間を150日から90日に劇的に短縮するものの、ほぼ等量発現するマウスではその潜伏期間の短縮がそれほどでもないことが明らかとなった。また、ヒト・マウスのキメラ型遺伝子を導入し、それぞれのGPI(Glycosyl Phosphatidyl inositol)型と分泌型の両方を発現するモデル動物では潜伏期間の延長を認めたものの、アミロイド斑の形成を認める点はマウスプリオン蛋白と同様であった。ヒト・マウスのキメラ型ではなく完全なヒト型の分泌型とGPI型の両方を発現するマウスを作製し、潜伏期間の短縮効果を明らかにしている。また、驚くべきことにマウスの分泌型のプリオン蛋白は、プリオン蛋白の異常化の指標であるプロテアーゼ抵抗性を示すようになり、プリオン蛋白の異常化のメカニズム解明に役立つモデルとして有用であるとともに、脾臓の濾胞樹状細胞を用いた異常プリオン蛋白の沈着が高い感度で検出可能であることが明らかとなり、現在申請中の特許をさらに進展させる新たな特許性が出てきた。工業所有権の申請には、申請中の特許との兼ね合いもあり、さらにヒト型モデル動物での有用性を検討するために、2年間の成果の公表を見合わせる必要があると考える。
|