Apaf1は、ミトコンドリア依存性アポトーシスにおいてカスパーゼ9を活性化するアダプター分子である。Bcl-xLはミトコンドリアの膜安定作用などによりミトコンドリア依存性アポトーシスに対して抑制的に働く。Apaf1欠損マウスは脳の発生過程におけるアポトーシスの著しい減少のため神経細胞の蓄積をきたす一方、Bcl-x(L)欠損マウスでは、脳の発生過程において神経細胞の過剰なアポトーシスが認められる。脳神経の発生過程におけるアポトーシスの制御機構を解析する目的で、Apaf1/Bcl-x(L)両遺伝子を欠損するマウス(ダブルノックアウトマウス)を作成、解析した。ダブルノックアウトの脳における表現型は、Apaf1ノックアウトのものと基本的に類似しており、組織学的解析により、以下のことが示唆されている。1)Apaf1の発現は細胞分裂期にある神経(前駆)細胞に強く、したがって、遺伝子欠損により分裂が過剰に継続する。2)一方、Bcl-x(L)の発現は分裂を終えた細胞に強く、成熟神経細胞の維持に関与していると思われる。3)したがって、ダブルノックアウトの表現型は、まず過剰増殖が生じる、これはBcl-x(L)欠損では抑制できないためApaf1のみのノックアウトと類似する。以上の様に、神経細胞の分化・増殖には、細胞分裂期と細胞分裂期以後とで細胞死誘導・細胞維持機構の使い分けがなされていると思われる。 一方、Bcl-x(L)欠損マウスは、血球系前駆細胞の過剰なアポトーシスにより胎生期に死亡するが、この表現型は、Apaf1欠損により回復しなかった。血球系の分化増殖にApaf1が関与するか否か、現在解析を続けている。
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