ミツバチは社会性昆虫であり、その働き蜂は8字ダンスにより仲間に花の位置を教えるという高次行動を示す。ミツバチの脳では感覚統合や記憶・学習の中枢であるキノコ体が顕著に発達しており、キノコ体を構成する介在神経(ケニヨン細胞)は、細胞体の大きさから、大型と小型の2種類に分類される。我々はミツバチの高次行動に関わる遺伝子の候補として、大型と小型のケニヨン細胞の各々に特異的に発現する遺伝子(Mblk-1とKs-1)を同定しているが、本研究ではこれら2つの遺伝子のcDNAの単離と解析を行った。 その結果、Mblk-1遺伝子は新規なDNA結合タンパク質をコードすることを見出し、このタンパク質が転写促進活性をもつことを示した。これは、昆虫の脳でキノコ体特異的に発現する転写因子を同定した世界で初めての例であり、昆虫の脳機能の分子基盤を理解する上で、重要な知見である。また、その線虫ホモログも脳の神経細胞特異的に発現することを示し、Mblk-1の機能が動物種を超えて保存されることを示唆した。一方、小型ケニヨン細胞に選択的に発現するKs-1遺伝子のcDNAは、タンパク質をコードすると思われるORFを含まず、その転写産物(RNA)は中枢神経系の細胞核に穎粒状に局在することを示した。Ks-1遺伝子産物は、非翻訳性核RNAとして神経機能の調節に働くと考えられる。これは、神経細胞のサブタイプに特異的な核RNAを見出した初めての例であり、RNAの新しい機能を知る手掛かりになると期待される。この他本研究では、ミツバチのカースト特異的行動や攻撃行動を規定する遺伝子候補として、女王蜂の脳で選択的に発現するQ7遺伝子やQM〓遺伝子や、攻撃性が高い働き蜂(門番蜂)の脳で選択的に発現する、Agg-1やAgg-2遺伝子を同定した。
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