研究概要 |
脳の発生過程では多くの細胞は生れた場所とは異なる場所へと移動する。例えば中枢神経系を構成する神経細胞は、脳室に面した脳室層(小脳の一部の細胞は菱脳唇)で最終分裂を終えたのち、細胞によって定められた場所へと移動する。移動の距離は細胞によって異なるが、中には正中線を越えて反対側へ移動するものさえある(Altman and Bayer,1978;Tan and LeDouarin,1991など)。したがって細胞移動は脳の発生にとって極めて重要な問題である。然るに移動の解析方渋、なかでもその動態の解析方法の欠除のため、神経細胞の移動の機構に関する知見は驚くほど乏しい。そこで本研究では脳の神経細胞の移動を可視化する新しいシステムを開発し、その動態の解析を進めるとともに、遺伝子導入によりその分子機構を明らかにする事を目的として研究をおこなった。 脊椎動物の脳では現在までに神経細胞の遊走には脳室層に対して垂直な方向(ラジアル方向)と脳表面に対して平行な方向(タンジェンシャル方向)の2つの移動方向があることが知られており、前者はラディアルグリア、後者はそれ以外(神経細胞の突起等)が足場になるとされている。本研究では前者のモデルとして大脳皮質の神経細胞、タンジェンシャル方向に移動する後者のモデルとしてprecellebellar nucleiを形成する菱脳唇の神経細胞を選んで研究をおこなった。その結果、 1)分裂中の運動の段階 2)最終分裂を終えた神経細胞が、最終位置まで移動する段階 3)最終位置に到達した神経細胞が動きをとめてさらに分化してゆく段階 を捉えることが出来た。またさらに平成13年度では、前年度に得た細胞移動の解析データをもとに神経細胞の移動に関わると思われる遺伝子の評価をもおこなった。
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