我々は、疾患モデルマウスの解析を通して、ヒトの糖尿病の成因・病態生理の解明をめざしている。そのひとつとして、常染色体優性遺伝形式を示す糖尿病モデルAkita mouseの原因遺伝子Modyがインスリン2遺伝子Ins2の点突然変異によることを見出した。インスリンのA鎖とB鎖間に存在するdisulfide結合の形成に関与するシステイン残基をチロシン残基に変える変異が存在した。本研究は、この変異インスリンが膵β細胞にどのような影響を及ぼすかを解析して、インスリン遺伝子異常症に伴う糖尿病の発症機序、病態生理の解明につとめる。これまでの解析より、本マウスで見出された変異インスリンは、蛋白質の折りたたみの異常により、小胞体ERからGolgi装置への輸送がブロックされ、細胞内で蓄積・破壊されることが示唆された。そのため膵β細胞のインスリン分泌不全が起こり、糖尿病が発症すると考えられる。より詳細な変異インスリンによる膵β細胞障害の機構を解明するために、電顕による定量的な形態学的解析を行っている。現在までに、本マウスの膵β細胞の顆粒が約5倍減少し、ER内腔が約3倍に拡張していることを見出した。さらにERとは別のオルガネラが拡張していることを見出した。今後、異常プロインスリンの蓄積部位と形態学的変化をさらに詳細に解析する。また、我々は、正常、変異プロインスリンをそれぞれ別に発現させたCHO細胞株を確立し、変異プロインスリン発現による膵β細胞の形態学的変化が、本細胞株でも再現されることを確認した。折り畳みのうまくいかなかった蛋白質は、一般にプロテオソームで分解されるが、このCHO細胞を用いてプロテオソーム阻害剤により、合成されたプロインスリンの細胞内破壊が遅延することを見出した。今後、変異プロインスリンの細胞内代謝におけるプロテオソームの関与をさらに詳細に調べる。
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