研究概要 |
私たちは、比較的新しく開発された糖尿病モデル動物の解析を行い、ヒト糖尿病の成因や病態生理の解明に貢献することを目的としている。 (1)肥満・耐糖能異常を有するTSODマウスの遺伝学的解析により見出された、血糖値、インスリン値、体重などに関する量的形質遺伝子QTLs(quantitative trait locus)の実体解明をめざしている。まず、各QTL局在領域のみ対照Balb/cAマウス・ゲノムに由来し、他をTSODマウス・ゲノムに由来するコンジェニック・マウスを作製し、これまでの遺伝学的解析より予想された表現型を示すことを確認した。次に第11,第2、第1染色体上の各QTLに関し、それぞれ11、17,6系統のコンジェニックマウスを作製した。これらマウスの表現型を親系統(TSODマウス)と比較することにより、QTLの染色体上局在領域を狭めることができる。最も解析の進んでいる第2染色体上のQTLに関しては、約12.8Mb(既値34個、新規15個の遺伝子が存在)の領域に、遺伝子存在領域を絞り込んだ。 (2)インスリン2分子のA鎖第7番目のシステイン残基の変異により、常染色体優性遺伝形式をとる糖尿病を示すMody(別名Akita)マウスの病態生理の解明を行った。その結果、変異プロインスリンが、膵β細胞の蛋白質合成レベルを減少させていないこと、フリーなシステイン残基を介して他の分子と異常なdisulfide結合を形成していないことを見出した。しかし構成性に分泌される分泌型アルカリフォスファターゼの細胞内輸送は、Modyマウス膵β細胞で減少していた。膵β細胞の電顕観察では、分泌顆粒の縮小、小胞体様オルガネラ内腔拡大が、糖尿病発症時の4週齢から認められた。しかしアポトーシスの頻度は低く、正常マウス膵β細胞に比し、わずかに多い程度であった。むしろミトコンドリアやライソゾームの膨潤など細胞変性像が一様に観察され、これらの変化は年齢とともに増悪した。以上の所見は、Modyマウスにおいて、変異プロインスリンの細胞内蓄積が、非特異的オルガネラ機能不全を引き起こし、共存する野生型インスリンの分泌不全をきたしていることを示唆している。
|