研究概要 |
本課題では、固体清浄表面にflat-on配向させた反応性の鎖状・平面分子の単分子層内で、分子を二次元的に結びつけて炭素原子の平面ネットワーク(厚さ0.4nmの有機単原子層)形成し、これを累積することにより原子レベルで厚さと組成を調整可能な層状新物質を創成することを目指している。このため、同一試料に対してペニングイオン化電子分光(PIES)・紫外光電子分光(UPS)と走査トンネル顕微鏡観察(STM)を行えるように、PIES/UPS装置と接続が可能で、共通の試料台を装着できる低温有機極薄膜表面観測装置を開発した。この装置は、反応性有機物専用の蒸着源と試料台の搬送・冷却・交換システムとを組み込んだ試料作成室ならびに低温観測室から成る。現在グラファイトの劈開面を原子分解能で観察できるように調整中である。STMの立上げと平行して次の研究を行った。 二次元ネットワークの生成反応を解析するための基礎として、帯状巨大分子を生成する17,19-ヘキサトリアコンタジイン(HTDY)単分子層の光重合反応を調べた。別装置を用いたSTMによりグラファイト上に形成したHTDY単分子層の反応前後の分子配列が明らかになった。また、赤外反射吸収分光(IR-RAS)によりAu(111)面上のHTDY膜の構造評価を行った。HTDYを5MLE (flat-on配向と仮定した場合の5層分)蒸着して得た膜では、分子はall-trans配座で存在し、基板に対する炭素骨格平面の傾きは小さいことが分かった。一方1 MLE膜では、HTDY分子がAu基板と直接相互作用することにより生じた特殊な振動状態に基づくバンドが観測され、HTDY分子が横たわっていることが示された。なお、平面分子からなるネットワークを構築するための母体構造としてぺンタセンに注目し、PIES/UPSにより極薄膜の構造評価を行った。
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