研究概要 |
本課題では、固体清浄表面に反応性鎖状分子をflat-on配向で並べた単分子層内で分子を結びつけて炭素原子の平面ネットワーク(有機単原子層)形成し、これを累積することにより原子レベルで厚さと組成を調整可能な層状新物質を創成することを目指している。この目的のために不可欠な低温有機極薄膜表面観測装置を開発し、その試験的運用を兼ねてグラファイトの劈開面に形成した17, 19-hexatria-contadiyne(HTDY)と17, 19-dotetracontadiyne(DTDY)の極薄膜の構造と光重合反応を検討した。 ペニングイオン化電子分光と紫外光電子分光により単分子層においてDTDYがHTDYの場合と同様にflat-on配向をとること、2分子層以上では最上層の分子が炭素骨格面の短軸を傾けた配向をとること、膜は蒸着量の増加と共にほぼ単層成長し均一に厚くなることが確認された。また低温で形成したDTDY単分子層を徐々に昇温すると、HTDYの場合(220K)よりもやや高い270K付近から分子が脱離し始めた。DTDY単分子層に紫外線照射を行うと、重合反応が層内の一部で起こるものの完全には進行せず、昇温の過程で半分近くの分子が脱離した。これは密な充填が保たれたまま反応が進み帯状巨大分子が得られるHTDYの場合とは異なっている。 超高真空中で観察したHTDY単分子層のSTM像は、過去に大気中で観察したHTDYの像と同様の分子充填の様式を与えた。一方、DTDY単分子層のSTM像には充填の欠陥が散見された。この欠陥が重合反応を阻害する原因と考えられ、実際、DTDY単分子層に紫外線照射した試料では分子像が得られなかった。また、DTDYの液相吸着膜では、分子の脱離・再吸着が容易であるため、蒸着膜よりも欠陥の少ない充填度の高い単分子層の像が得られた。
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