研究概要 |
前年度までに開発した有機極薄膜表面観測装置の調整を進めて低温試料のSTM観察を可能にし、グラファイトの(0001)面に形成した17,19-hexatriacontadiyne(HTDY)膜とその重合膜について次のことを明らかにした。 150K〜室温において、flat-on配向のHTDY分子が配列した幅50Åのカラム構造から成る単分子層(厚さ4Å)が得られる。室温では分子のmobilityが高いためHTDYは大きなドメインを形成しやすく、1000Å四方の領域で分子の充填様式と方向が揃うが、脱離も起こしやすい。220K以下ではドメインが大きく成長せず、下地との関係が等価な、方向の異なるカラムが同一STM像に観測される。特に、反転した分子から成るカラムの境界では、両カラムが半周期ずれアルキル鎖同士の接触を最大にするように並ぶため、カラム軸が互いに4°の角度を成す。しかし、カラムの内部構造は温度に依存しない。2層目のカラムは、1層目のカラムと60°の角度を成す場合と1層目のカラムの真上に平行に並ぶ場合とがある。 150Kで作成した単分子層を220Kにすると一部のカラム構造が消失し液相になる。電子分光の結果はこの温度が単分子層重合に最適であることを示す。200Kで単分子層に紫外線を照射すると、アルキル鎖とポリマー鎖の角度が異なる2種類の帯状巨大分子(atomic sash)が得られ、カラム中心部のコントラストも異なる。現在、両者の相違について考察中である。 なお、Au(111)面に溶液から吸着させて得られるHTDY単分子層は、赤外反射吸収スペクトル(IRAS)においてgauche配座がほとんど検出されず、STM像においてカラム構造を反映する周期を与える。Au(111)面上でもatomic sashを形成し、IRAS/STMによる解析が可能になると期待される。
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