研究概要 |
I 「老化水晶体中のαA-クリスタリンのAsp151残基及びAsp-58部残基の反転(D-体化)と異性化(β-化)」 生体を構成するタンパク質はすべてL-アミノ酸から構成されているが、我々は老化した眼の水晶体の主要構成成分であるαA-クリスタリン中に通常では見られないD-β-アスパラギン酸(D-β-Asp)を多量に検出した。特に80歳のヒトのαA-クリスタリン中のAsp-151,Asp-58残基はD/L比が各々、5.7、3.1と1.0を大きく上回っており、もはや通常のラセミ化反応ではなく、反転反応の範疇であった。このような反転反応は他のタンパク質では例を見ない。これらの反応は生後すぐに開始され、30代で、すでに正常なAsp151、58残基は半減し、その量は加齢と共に蓄積されて増加していくことが明らかとなった。 II 「放射線照射したαA-クリスタリンの翻訳後修飾、2次-4次構造、シャペロン機能への影響」 水晶体のα-クリスタリンは他のクリスタリンの無秩序な凝集を防ぎ、水晶体の透明性を維持するというシャペロン機能を担っている。白内障はこのシャペロン機能の低下が一因であると考えられている。本研究ではウシのα-クリスタリン分子に放射線照射を行い、シャペロン機能低下とアミノ酸の修飾の関連を検討した。その結果、放射線照射により線量依存的にAsp151残基の異性化、Met-1残基の酸化が惹起され、4次構造に変化が生じた。シャペロン機能も線量依存的に低下した。 III 「紫外線照射による皮膚のD-β-Asp含有タンパク質の蓄積」 ヒトαA-クリスタリン中のD-β-Asp151を含む前後数残基と同一配列からなるペプチドを合成し、これを特異的に認識する抗体を調製した。本抗体はD-β-Asp含有タンパク質を特異的に認識するのでこれを用いて皮膚の免疫組織染色を行った。その結果、老人の顔の皮膚に顕著にD-β-Asp含有タンパク質が認められた。子供の顔の皮膚では検出されず、同じ老人の皮膚でも紫外線被爆の影響が直接的でない胸部や腹部の皮膚ではD-β-Aspタンパク質の存在は認められなかった。これらの結果はタンパク質中でのD-β-Asp生成が紫外線照射によって惹起去れ、老化と共に蓄積することを強く示唆した。
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