脊椎動物の視細胞における光信号変換分子機構は脊椎動物視細胞の光-化学信号変換の分子機構は3量体型Gタンパク質が仲介する細胞内信号系の典型として盛んに研究されてきた。しかし、この系の特徴である背景光強度に対する極めて広いダイナミックレンジの順応作用についてはまだほとんど解明されておらず、その理解には信号系の不活性化のメカニズムの解明が不可欠であると信じられている。本研究計画ではCdk5というセリン・トレオニンキナーゼによるcGMP加水分解酵素(PDE)阻害サブユニットのリン酸化とPP2Aと考えられるホスファターゼによる脱リン酸が光で活性化されたPDEの不活性化過程にどのような役割を果たすのかを明らかにすることを目指している。この研究の過程で、視細胞外節膜はこれまで漠然と考えられてきたような均一な膜系ではなく、高度不飽和脂肪酸を有するリン脂質の膜の上に高度に飽和した脂肪酸を有するグロセロリン脂質(特にホスファチジルコリン)やスフィンゴ糖脂質を主成分とするラフト様の膜領域が存在すヘテロな膜であることやGタンパク質やPDEなどの主要な信号系タンパク質が活性依存的に両膜領域間を往復することを発見した。本年はPDE阻害サブユニットをリン酸化、脱リン酸化するCdk5やPP2Aのこうした膜間の分布とその変化について検討した。 本年の成果:ウシの無傷の視細胞外節を用いて検討した結果、Cdk5及びPP2AはTriton X-100不溶性分画に局在が認められたが、ショ糖密度勾配遠心法で分離すると細胞骨格と見られる高比重分画に分布していることが確認できた。この分布はCa2+の濃度や光刺激に無関係である。 今後の研究の展開:活性化したPDEはラフト様膜領域に移行することを見つけている。このPDEのラフトへの移行現象にCdk5によるPDE阻害サブユニットのリン酸化やPP2Aによる脱リン酸化がどのような影響を与えるかなどを検討する。
|