研究概要 |
PIらは、2000年に、脊椎動物視細胞の光受容部に神経特異的サイタリン依存性キナーゼ5(Cdk5)が存在することを発見し、この酵素が光信号系の効果器酵素であるcGMP加水分解酵素(phosphodiesterase6:PDE6)の阻害サブユニット(Pγ)をリン酸化することを明らかにした。さらに2001年に、視細胞のTriton X-100難溶性ラフト様膜分画への活性化に伴うPDEの移行を発見した。本年度は、1)Cdk5によるPγのリン酸化がPDEのラフトへの移行にどのような影響を与えるか、2)ラフトへ移行したPDEはどのようなタンパク質と相互作用するのか、3)ラフトへ移行したPDEのPγサブユニットはCdk5によるリン酸化を受けるのか、4)視細胞外節内でのCdk5とホスファターゼの局在、ラフトへの分布、などを検討した。その結果、(1)Cdk5によってリン酸化されたPDEはTriton X-100可溶性分画にとどまり、ラフト様分画には移行しない。(2)ラフトへ移行したPDEは活性型のトランスデューシンαサブユニット(Tα)と会合しており、この状態でCdk5の基質になることが確認できた。(3)Cdk5および視細胞外節の主要タンパク質脱リン酸化酵素であるPP2AはいずれもTriton X-100可溶性膜分画に局在する。以上の知見から、視細胞光受容膜はTriton X-100に可溶性脂質膜領域と難溶性膜領域(Detergent-Resistant Membrane : DRM)から構成され,Cdk5及びPP2Aは前者の膜領域に局在することが分かった。活性型PDEはDRMに集まる現象が見られるが、Cdk5からは隔離されてしまうことになる。可溶性膜領域でのCdk5によるPγのリン酸化はTαとの親和性を弱めるので、このリン酸化にはPDEの基底活性を抑える働きがあることが推定される。
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