我々は脊椎細胞のGタンパク質信号系を用いてin vitroおよびin situ実験において、1)Gタンパク質標的酵素(PDE6の阻害サブユニット:Pγ)のリン酸化がこれまで機能の不明確であった神経細胞特異的サイクリン依存性プロテインキナーゼ(Cdk5)によって行われていること、2)そのリン酸化は基質とGタンパク質の相互作用に伴って生起すること。つまり、Gタンパク質が効果器を活性化した段階ではじめてリン酸化基質になる。3)脱リン酸化酵素は常に働いており、in situにおいて迅速な脱リン酸化が行われ、信号系の応答時間特性を向上させていること、などを明らかにできた。我々の研究成果の重要な点は、1)サイクリン依存性プロテインキナーゼの未知の機能を示唆したこと、2)これまで3量体型Gタンパク質信号系の不活性化プロセスはGタンパク質自身が内在性のGTPase活性によって不活性化すれば自然に不活性化すると考えられてきたが、このプロセスに効果器酵素のリン酸化が関与する可能性を明らかにした、3)視細胞における光信号変換系の機能調節にもG蛋白質標的酵素のリン酸化と脱リン酸化が関与しているという視細胞研究の新しい展開を引き出した点などである。JBC誌上で報告した。さらに、Cdk5が視細胞外節のどのような領域に局在するのかを検討する過程で、視細胞光受容膜にTriton X-100難溶性の膜領域(ラフト様膜領域)が存在することを発見した。この発見は視細胞でのCdk5の役割に関する研究にとって副次的なものではあったが、円板膜上で行われる光信号変換の分子機構を考えるに当たって、きわめて重要な知見であった。Cdk5及びホスファターゼがラフト様膜領域とどのような関係にあるかを検討するとともに、ラフト様膜領域と光信号伝達系(ロドプシン、トランスデューシン、PDE6)の関係を詳細に検討し、JBC誌上で報告した。
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