研究概要 |
RadixinはERMファミリーに属する細胞膜とアクチン細胞骨格を繋ぐリンカー蛋白質である。興味深いことに、細胞内シグナル伝達としては、低分子量G蛋白質Rhoの下流と上流の両方に位置しているとされている。radixinは複数の分子(PIP2、細胞接着分子、RhoGDI、アクチン、Dbl)と相互作用するFERMドメイン(〜300残基)をN-末端にもつ。これらの分子認識を通して達成される機能制御メカニズムの解明を目指して、幾つかの複合体の結晶の構造解析を行った。今回、細胞接着分子ICAM-2との複合体、ならびにRhoGDIとの複合体の結晶化に成功した。両者とも構造決定して、ICAM-2認識とGDI活性制御機構を明らかにした。既に構造決定している遊離型ならびにIP3複合体の構造と比較して、PIP2の認識、膜への会合、ならびにunmaskingの機構との関連を変異実験や結合実験で解析する基盤ができた。 神経線維芽腫瘍II型(Neurofibromatosis type2,NF2)は、両側聴神経の異常に伴い、髄膜腫、脊髄腫瘍などの神経系腫瘍が同時に多発する疾病である。その原因遺伝子がコードする癌抑制蛋白質merlinはERMの最類似蛋白質で、接着分子とアクチン骨格との連結など、ERMと類似した機能をもつとされており、merlinの異常による細胞接着機能の低下が発症の原因と考えられている。Merlinの変異の多くはそのアミノ末端のFERM類似ドメインに落ちる。今回、このドメインの構造を決定して、ERMのものと比較して、その機能がほぼ同等であることを示した。また、多くの癌原性変異の構造的な解釈を提出した。
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