研究概要 |
我々は今まで哺乳類ポリコーム遺伝子群の免疫系における生物学的機能を検討してきた。最近の我々のデータから、ポリコーム遺伝子群はリンパ球の生と死のバランス調節機構として機能していることが判明してきた。 胸腺内リンパ球の初期分化解析プロジェクト:初期分化過程において、ポリコーム遺伝子群(特にmel-18遺伝子)の発現が分化段階ごとに異なり、特定の時期に発現誘導される。遺伝子欠損マウスの分化障害の時期がその時期に一致していることが分かった。T前駆細胞の運命決定(lineage commitment)を検討するために、単一細胞レベルでの胸腺器官培養(FTOC)を用いて解析を行った(MLP assay系)。その結果、胎児肝臓や胎児血液中のT前駆細胞までは正常であるが、胸腺に移入しc-kit+DN1分画から突然に細胞数が減少すること、前駆細胞の頻度が約10分の1に低下することが分かった。さらに、beta-selection後のDN3・Large cell分画でも分化障害が起きることが分かった。つまりDN分画中に2ヶ所、ポリコーム遺伝子により制御されているチェックポイントがあることが分かった。このチェックポイントとシグナル(受容体型チロシンキナーゼなどからのシグナル)、標的遺伝子の変動(DNAマイクロアレイを用いた解析など)を現在行っている。シグナルに付いては、c-kit, IL-7R, Notch-Delta系などを検討している。 ポリコーム蛋白質複合体の解析プルジェクト:最近、ハーバード大学との共同研究により、核内の巨大なポリコーム蛋白質複合体の精製に成功した。このクラスIIポリコーム蛋白質複合体のバランス制御機構の破綻が、多くの生物機能破綻の原因であることが分かった。つまり、核内のポリコーム蛋白質複合体の不安定化・制御機構破綻が継続すると、細胞の異常を引き起こすことが分かった。この複合体の不安定化による転写抑制機構の破綻が、免疫不全の原因の一つと考えられる。現在、ポリコーム蛋白質複合体の構成蛋白質の解析を行っている。
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