研究課題
クリスタルマッシュ(結晶+メルト+流体の三相混相状態)のマグマ溜りにおける流体相の挙動を探ることは、火山噴火の周期やトリガーに深く関与するマグマ溜りの過剰圧の蓄積過程を理解する上で重要である。マグマ溜り全体の脱ガス効率にはその浸透性が重要な役割を果たすし、噴火を開始する岩脈の形成過程は、結晶量や気泡量によって支配されるマグマ溜り頂部の物性によって決定されるからである。また流体の移動に伴う、流体相濃集元素の運搬・分別・沈殿作用はマグマの化学分化にとって重要な素過程である。本年度は、昨年度までに開発した多端子高圧下岩石物性測定装置を使用し、気泡を含むクリスタルマッシュの状態を再現した。出発物質として阿武隈花樹岩体および茨城県山の尾ペグマタイトを用い、これらに15〜30wt%程度のH2Oを加えたものを用いた。圧力は7〜8kbar、最高温度は680℃〜720℃程度で、実験時間は45〜90時間である。実験の結果、結晶+メルト部分、結晶+フルイド部分に分離した構造が見られた。フルイドは全体の15%程度で、フルイド濃集部分では40%、メルト濃集部分では5%程度を占めていた。メルト濃集部においては、フルイド濃集部に近くなるにつれてメルト濃集部分に含まれる気泡(フルイド)の量が減少する傾向が見られた。このことは、メルト濃集部分からフルイドの吐き出しが起こっていることを示唆している。つまり、結晶とフルイドはよく濡れるがメルトとフルイドは濡れにくいといえる。フルイドの吐き出しが進むことによって結晶+フルイド部分と結晶+メルト部分の分離が起こると考えられる。天然のマグマ溜りでもこのような分離現象が起こっているとすると、遊離結晶を噴出するような火山のマグマ溜り上部で、噴火前のマグマ溜りが揮発性成分に飽和している証拠として考えられ、また、噴出物の物性を考える上で重要と思われる。
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