1991年に海洋バクテリアより単離されたオクタラクチン類は8貝環ラクトン部を含む特異な構造を持つポリオキシ化合物である。筆者らは不斉アルドール反応を用いて立体選択的に鎖状化合物を合成し、このラクトン化により8貝環部を構築することで種々のオクタラクチン類縁体を効率的に供給できるものと考え、それらの合成研究を行った。まず、2-トリイソプロピルシロキシアセトアルデヒドあるいは3-トリイソプロピルシロキシプロピオンアルデヒドに対し、アルキルチオ基を含む四置換ケアンシリルアセタールを不斉付加させることにより高い光学純度でアルドール体を得た。さらにここで得られた二つの部分構造をp-メトキシベンジリデンアセタールおよびベンジリデンアセタールへ変換し、引き続く脱官能基化反応により光学活性なアンチヒドロキシメチルユニットをそれぞれ合成した。次いでこれらから導かれるアルデヒド及びホスホニウム塩のWittig反応を経由して閉環前駆体であるヒドロキシカルボン酸を調製した。このヒドロキシカルボン酸の環化に際しては当研究室で開発された2-メチル-6-ニトロ安息香酸無水物(MNBA)を脱水縮合剤として用いることにより、室温という温和な条件下、目的の中員環状ラクトンを良好な収率で得た。引き続き、筆者らは不斉アルドール反応を再度用いて光学活性な側鎖部を合成し、これを先に得た環化体と接合させることによりカップリング体を入手した。最後に、得られた中間体を常法に従って誘導し、オクタラクチン類の不斉全合成を達成した。さらに筆者らは、立体配置を変換したオクタラクチン類縁体の調製を行い、これらの構造と薬理活性の相関の研究を通じて非天然型抗腫瘍活性化合物の創製を目指して検討を行った。
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