研究概要 |
これまでに得たフィチン酸金属錯体の溶液中での存在形態を基に,抗癌活性をヒトガンKB細胞を用いて測定し,金属錯体が良好な抗癌活性を持つことを明らかにした。また,フィチン酸化水分解酵素フィターゼの金属イオン依存性について,フィチン酸以外の基質を用いて検討を加え,基質への金属配位の役割を解明した。 1.フィチン酸金属錯体の溶液中での存在形態解明 これまでに得た金属錯体の存在種,その安定度定数,さらにその配位構造を説明できる統一的見解を得た。生理的条件下では,リン酸間距離の大きなリン酸に金属が配位し,残る未配位のリン酸はプロトンがついてリン酸間水素結合により安定化する。 2.フィチン酸金属錯体の生理活性 生体に含まれる置換活性な金属イオンとフィチン酸が形成する錯体について,抗癌活性を測定した。金属中9種はきれいな用量一作用曲線を示し,IC50値が求められた。すべての錯体はフィチン酸よりも小さなIC50値を示しており,フィチン酸が生体内で金属と結合して生理活性を示していることが示された。フィチン酸の抗癌活性はカルシウム錯体によるものと判断され,安定度定数を用いたシミュレーションから生理活性種がCa2(フィチン酸)H3と示唆された。生理活性機構として,細胞内液の銅濃度ESR測定から,フィチン酸金属錯体がフィチン酸の膜通過を容易にしていることが示された。 3.フィチン酸加水分解酵素フィターゼ酵素活性の金属イオン依存性 フィチン酸以外の基質パラニトロフェノールリン酸についてこれまで同様にフィターゼ酵素活性の金属イオン依存性を調べたところ,これらの金属イオン依存性は,リン酸モノエステルの錯形成の順になっていた。フィチン酸同様,金属配位の基質が反応活性であることを示しており金属イオンの基質リン酸部位への配位はホスファターゼ活性を増加させることが判明した。
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