研究概要 |
我々は,導電性ポリマーであるポリピロールが過酸化されると脱ドープにより鋳型が形成されることを見出した。ポリピロールはモノマーより酸化的に合成されるためポリマー内に陽電荷が発生する。この陽電荷はドーパントと呼ばれる陰イオンにより中和されるが,このポリマーをさらに酸化すると(過酸化)この陽電荷が消滅し,ドーパントイオンの脱ドープが起こる。このとき,ドーパントの形が分子鋳型としてポリマー内に記憶される。この新しい方法の特徴は今までの鋳型ポリマーでは得られなかったほどの高い基質選択性がきわめて簡単な合成過程で得られることである。 我々はこのポリマーが高い基質選択性を持つことをグルタミン酸やアラニンなどのアミノ酸の光学異性体を用いて証明した。また,ポリマーの生成に関するメカニズムの検討も行った。過酸化による陰イオンの脱ドープは,XPS分光法による検討の結果,ほぼ完全に起こることが実証できた。また,過酸化はポリマー組織の硬化を伴うことが水晶振動子マイクロバランス法による研究から分かった。このような結果から,ポリマー内に形成される鋳型が鋳型分子の形を極めて忠実にトレースしていることが判明した。 このように鋳型ポリマーの優れた物性が確認できたので,アミノ酸光学異性体の認識を過酸化ポリピロールコロイドを作成して行った。L-乳酸を鋳型分子としてコロイドを合成し,アラニンの取り込みを検討したところ,L体の方がD体に比べで10倍以上取り込まれることが分かった。また,ここで作成された鋳型はアミノ酸の側鎖の大きさも正確に認識していることも分かった。したがって,この過酸化ポリマーはこれまでの鋳型ポリマーに比べて非常に高い選択性を有していることが実証できた。
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