研究概要 |
本研究はO^6-メチルグアニン-DNAメチルトランスフェラーゼ(MGMT)を欠損するノックアウトマウス及びそれに加えてミスマッチ修復系の遺伝子の一つであるMlh1を欠損したノックアウトマウス個体で得られた結果を基に、それらマウスから得られる細胞を用いた、より簡便かつ正確な突然変異原性の検出・評価法の確立を目的とした。種々の遺伝子型(Mgmt-/-Mlh1^<+/+>,Mgmt^<-/->Mlh1^<-/->,Mgmt^<-/->Mlh1^<+/->,Mgmt^<+/+>Mlh1^<-/->)のノックアウトマウスの肺組織より分離した初代培養細胞にSV40ウイルス由来の形質転換ベクターを導入することにより、各遺伝子型の株細胞を樹立し、MNUやMNNGのような単純アルキル化剤の致死効果及び突然変異誘起効果に対する感受性を調べた。Mgmt単独欠損細胞はアルキル化剤に対して非常に高い感受性を示すが、Mgmy欠損に加えてミスマッチ修復系の遺伝子の一つであるMlh1欠損した細胞株(Mgmt^<-/->Mlh1^<-/->)では、MGMTタンパクがないにも関わらず致死効果に対しては野生型と同等の抵抗性を示し突然変異誘起効果に対しては高感受性となった。これらの結果はノックアウトマウス個体を用いたアルキル化剤に対する感受性及び胸腺種の発症率と対応するもので、DNA修復系の遺伝子の欠損による突然変異頻度の上昇が個体レベルでのがんを引き起こすことを示唆するものである。また、アルキル化抗がん剤であるダカルバジンでも同様の結果が得られたことから、抗がん剤の使用にあたって遺伝的背景を知っておくことの重要性が示唆された。ここで樹立した細胞系がアルキル化作用を持つ発がん性の検出・評価系として簡便かつ信頼度の高い系であったので、活性酸素による自然発がんにおける同様な細胞レベルの検出系の確立及び修復とアポトーシスとの関係の分子レベルの研究を進めつつある。
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