研究概要 |
遺伝子工学やトランスジェニック動物作成技術が医学、農学、薬学等のあらゆる分野の進歩に多大な貢献をしており、染色体工学や発生工学的技術が注目を受けている。我々は広領域の遺伝子群を解析し、改変する目的で染色体工学的な手法を用いて研究を行った。数Mbから数十Mbレベルの大きさのヒトの小型化染色体を、哺乳類細胞の数十から数百倍の高頻度で相同組み換えを起こすニワトリDT40細胞へ移行させ、宿主DT40細胞中でヒト染色体を効率よく改変した。安定に保持される人工染色体の作出と染色体上遺伝子群の適正な機能発現には、セントロメア部位の役割が重要になり、セントロメアの機能解析を精力的に行った(Fukagawa et al.,2001,Nishihashi et al.,2002)。 4MbのヒトMHC領域は、クラスI、II、IIIの異なった機能領域よりなり、各領域はS期の異なった時期に複製をすることを明らかにした。領域ごとの遺伝子群の発現制御と複製時期の制御とが関連すると想定された。ヒトMHC領域の複製時期の転換は、クラスIIとIII領域の境界で起こる事を明らかにしたが、仏国のグループはブタMHC領域の場合、この境界領域にセントロメアが存在することを明らかにした。ヒトMHC領域における複製と遺伝子発現様式の制御機構に関係するゲノム配列を探索する過程で、我々は三重鎖形成能を持つ特徴的な配列を、複製時期の転換点に見い出した(Kanaya et al.,2000)。この三重鎖構造が細胞核内でも形成され、核内ではセントロメア配列と空間的に近接して配置している事も見い出しており、遺伝子発現や複製の制御機構と関係する可能性が示された(Ohno et al.,2002)。複製時期の測定法の改良を行いながら自律複製する人工染色体上に存在するセントロメアDNAの複製時期を測定し、S期後半に複製すること、宿主の染色体へインテグレートした後の複製時期(S期前半から中間で複製)とは明らかに異なることを見い出した。人工染色体作成にはセントロメアの機能を解析することが重要と考え、遺伝子ノックアウト法を用いて複数のセントロメアタンパク質の解析を行った。遺伝子ノックアウト解析に加え、ヒトMHC領域を持つ第6染色体をDT40細胞へ移行させて、DNAチップを用いてDNA複製タイミングを測定した。 現在、DT40細胞からES細胞を移行させる実験が進行しているが、本研究で得られた知見は、ヒト型MHCを代表例とするヒトの広範囲ゲノム機能領域を保有するマウスの作出に基礎知識を与えている。
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