研究課題/領域番号 |
12555009
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田中 肇 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (60159019)
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研究分担者 |
大久保 優晴 日本分光, 第一技術部・応用技術課, 技術2係係長(研究職)
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キーワード | 位相コヒーレント光散乱法 / 光グレーティング / モード選択 / ゆらぎのダイナミクス / 液晶等方相 / 熱拡散モードRayleighスペクトル / 比熱、熱拡散率の臨界挙動 / 波長可変CWレーザ |
研究概要 |
異方性分子からなる液晶等方相の動的光散乱は、熱拡散、配向緩和、および音響フォノンの3モードが混在するため、従来の測定法では各モードからの光散乱スペクトルが重なってしまう。このような複数のモードの混在という現象は多くの複雑流体からの光散乱スペクトルに共通に見られ、熱励起ゆらぎを用いるという従来法の測定原理そのものに由来している。 われわれが開発した位相コヒーレント光散乱法では、2本のレーザー光を用いて媒質中に光の干渉縞を作ることで、位相のそろったコヒーレントな運動モードを強く励起できる。また、この方法では各々のモードを光で人工的に励起するため、自由にその強度を制御することが可能で、混在するモードの中からある特定のモードのスペクトルだけを選択的に分光できる。 今回われわれは、液晶等方相における熱拡散モードRayleighスペクトルの温度変化を調べた。従来の光散乱では、ネマティック相への転移温度近傍では配向緩和モードが支配的となるが、位相コヒーレント光散乱法ではその影響を受けずに熱拡散モードだけを測定できる。さらに位相コヒーレント光散乱では、熱拡散スペクトルの線幅は熱拡散率を、また振幅は定圧比熱を反映しているため、これらの温度依存性を測定することで、液晶の比熱、熱拡散率の臨界挙動についての知見が同時に得られる。 今回の測定により、7CB等方相の熱拡散スペクトルの振幅、線幅ともに、転移温度近傍において顕著に減少することが観測された。振幅の温度依存性から得られる臨界指数は比熱の指数と一致し、この減少は転移温度近傍のゆらぎの臨界減速によるものであると理解できる。動的光散乱実験において、比熱の臨界挙動を実際に観測した例は過去に無い。このような強いゆらぎの下での熱拡散モードの研究は位相コヒーレント光散乱法のモード選択性により初めて実現されるものであり、モード選択測定の有用性が示されたと言える。
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