研究概要 |
[1]熱環境が時間的に変化する非定常空間の空調快適性の定量評価基準の確立のため,従来の定常7段階スケールであった温冷感申告に対し,本研究においては新しい高分解能過渡温冷感申告法の提案を行い,新しく設けた温熱環境試験室において過渡温冷感挙動の実験的把握を行った。室温変化に対し,温冷感変化には時間遅れを生じ,室温変化速度の増加とともに大きくなることを明らかにし,かつ温冷感変化こう配に時間変化があり,温冷感の時間変化に時定数の概念の導入を行った。温冷感変化の感度に個体差があり,一般に温冷感感度の鈍い被験者においては,温冷感遅れ時間が長くなり,温冷感(Thermal Sensation Vote)の時間変化こう配は減少し,温冷感感度の鋭い被験者においては,遅れ時間は短く,温冷感こう配が急になる基本的傾向があり,両者の積が個体差を緩和すること,さらにこの積を温冷感遅れ時間と温冷感変化時定数の比によって修正を行えば適切な温冷感パラメタとなり得ることを示し,過渡温冷感の基本的挙動を実験的に明らかにした。 [2]次いで過渡温冷感挙動と人体側の皮膚表面温度,内部血流変化等との関連について実験的な検討を行うとともに,人体伝熱モデルの理論的検討を行った。まず,過渡温冷感挙動が人体の皮膚表面温度と密接に関連することは前記の通りであるが,さらにレーザー血流量計による測定によって,人体皮膚表面の血液流量が皮膚表面温度とともに増加することを明らかにした。このことは人体伝熱モデルにおいて組織を多孔質近似するとき,透過率の温度依存性(血管直径の温度依存性)の概念の導入の必要性を示唆していると考えられる。このことと関連して,動脈,静脈,組織間に血液浸透が存在する人体伝熱モデルを構築し,指あるいは腕等に対して数値解析を行い,温度および血液流量分布を求めた。
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