研究概要 |
本研究は,誘電泳動を用いた生体分子(DNA・タンパク等)の分離分析技術,および,その前処理・後処理を含めたμ-TAS(micro Total Analysis System)に関する実用化研究を行うことを目的とした。 本研究で開発したデバイスは,基板上にフォトリソグラフィーにより作られた電極列とそれを覆う微小流路からなり,電極列に高周波電圧を印加することにより高電界を形成し,流路入口から出口に向かって流れる試料中の生体分子のうち誘電泳動の大きく効くサイズの大きい粒子を電極列へとトラップすることにより分離したり,また,誘電泳動の効き方により生体分子の分析を行ったりするものである。 本年度の研究においては,まず,生体分子の誘電泳動特性に関する研究を行い,電荷を多量に持つDNAがタンパクより誘電泳動しやすいこと,同種の分子では分子量の大きい分子が理論通りトラップされやすいことを示した。電荷の多い分子がトラップされやすい理由は,これにより引き寄せられたカウンターイオンが外部電界により分極を生ずるからである。次に,この装置を用いて,B/F分離(Bound-Free Separation)の実証を行った。その結果,DNAについては,ハイブリダイゼーションを生じたものと生じていないものの分離を,タンパクについては,抗体と結合したものとしていないものとの分離を行うことができることを実証した。 誘電泳動は,溶液中の強電界を用いる手法であるため,溶液の導電率が高いとジュール熱による温度上昇が問題になる。一方,生体試料はたいてい塩濃度の高い生理状態の溶液として存在する。そこで,通常は,まず透析膜を用いて試料の導電率を下げてから誘電泳動を行う。この透析プロセスも集積化した分離分析装置を開発するため,本年度の研究においては,上記の研究と並行して,透析膜自体を微細流路系に作りつけるプロセスの開発を行った。その結果,数十秒の滞留時間で塩濃度を1/100程度に低下させることが可能な装置が得られた。 来年度以降は,これらを集積化したシステムを製作するとともに,システムとしての特性の研究を行う予定である。
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