研究概要 |
本研究では,ニトログリセリン(血管拡張薬)に対する中膜平滑筋の過渡応答である血管拡張反応を,高い空間分解能と時間分解能で検出するための高精度な連続的な計測手法とシステムを新たに開発し,従来不可能だった,動脈硬化症の無徴候性段階での検出・評価も含めた,動脈硬化症の早期診断法として確立することを目指した. (1)現有設備のリアルタイム連続計測装置の標本化周波数を,10MHzまで上げて空間分解能をさらに向上させ,上腕動脈・橈骨動脈など180ミクロン程度の薄い壁をもつ動脈壁の,1拍内での僅か数ミクロンの厚み変化の高精度連続計測を可能とするリアルタイムシステムを設計製作した. (2)同時連続計測する橈骨動脈での血圧から,1拍内での血管壁の『応力-歪み特性』を評価した. (3)水槽実験・動物実験によるリアルタイム連続計測システムによる動脈壁の応力-歪みヒステリシス特性・弾性特性・粘性特性の算出処理の詳細にわたる検討・精度評価を行って,充分な精度を確認した. (4)このシステムを,ヒト被験者に適用し,血管反応性評価を行って,ニトログリセリンをスプレー舌下後の血管反応性に,健常者と喫煙者間で差があるかを実験的に調べた.その結果,頚動脈の厚みに顕著な異常のない段階でも,喫煙者の弾性率が硬くなっていること,応力-歪みヒステリシス特性が,健常者とは全く異なり,喫煙者の反応性が悪いことを実験的に示した.これらは,従来の超音波診断検査などでは血管壁に異常が発見できない,無徴候性で早期の被験者においても,内皮細胞機能と平滑筋機能の反応性に関して,健康体に比較して顕著な差が現れることを実験的に示した点で大きな意義がある.
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