研究概要 |
本研究は,基盤がずれた場合に表層地盤を通って発生しうる活断層の挙動を予測するための数値解析手法の開発を試みるものである.表層地盤の中では,断層は枝分かれし,また,変形が分散することが知られている.このメカニズムを解明することが研究の第一歩となる.このため,断層発生や進展を再現するモデル実験を行うことを計画しており,本年度はその予備実験を行った. モデル実験の最大のポイントは,圧縮応力を受ける3次元物体の破壊現象を適切に調べることである.過去の研究により破壊現象の可視化には成功しているものの,数値解析手法の開発には,変位・ひずみは勿論,破壊を直接支配する3次元物体中の応力状態を測定することが重要となる.当初,CTスキャナを用いて,変位ベクトルの分布を計測し,そのデータから応力状態を推定する予定であったが,現時点でのCTスキャナの性能では必要な空間分解能が得られないことがわかった.代替案として,全く新しい3次元破壊現象のモデル実験の手法を考案した. 新しい実験手法は,古典的な光弾性実験を3次元に拡張したものである.応力分布の測定は,光弾性材料に複数の方向から単色光を投射し,得られた像に同時に逆解析を施すことで行われる.なお,3次元光弾性実験のアイディアは提案されているものの,比較的簡単な状態を想定した理論的な研究が中心であり,本研究が目指す破壊現象に伴う3次元応力分布の測定は検討すらされていない.これは,得られた像には物体各点の応力状態に関する情報が含まれるため,1)高精度のレーザを用いた精密な単色光の入射と,画像撮影に高い空間分解能が必要であること,2)3次元応力分布を推定する逆問題は強い非線形性を持ち,数理的に極めて難しい問題となること,という二つの理由がある.最新のレーザ光源とディジタル画像撮影を利用することで最初の課題を解決している.第二の課題は,コンピュータの進歩により力ずくで解くことは可能であるが,ラドン変換の拡張によってより精度・効率よく3次元応力分布を推定する見込みがある. 以上,本研究の今年度の成果は次の3点として整理される. 1)CTスキャナを用いたモデル実験の限界を見極め,代替案として3次元光弾性実験を考案したこと. 2)実験装置の載荷システム・光学系システムを設計し,実際に試験装置のプロトタイプを構築したこと. 3)3次元物体中の応力分布を推定するために,ラドン変換を拡張したく逆解析手法を考案したこと.
|