研究概要 |
本年度は,レーザードップラー速度計を用いて,実橋の床版の計測と振動特性の同定を可能とする実用的な計測システムを構築することが主たる検討対象とした.常時微動計則に適した計測システムの構築については,ハードウェアの点では,計測対象が長大で,かつ現場におけるノイズレベルが高いことを特徴とする社会基盤施設計測の用途を念頭に,レーザードップラー速度計の改良を図った.具体的には,多点広範囲な計測を実現するための照射角制御と,高いノイズレベルでも計測可能な徐振対策を行った.次いで,実橋での計測を通して,その実測記録から,ノイズの特性および常時微動の基本的性質を明らかにして,それらの情報を基に標点の自動探索システムを作成した.このようにして信頼性の高い計測情報処理を実現し,実橋での空間的な常時微動計測が可能なシステムを構築し,東名高速道路吉田橋のRC床版増し厚改修工事の際,工事前後の振動特性の測定を行った. さらに,常時微動の統計的特性を利用した振動特性同定法の構築については,実測によって得られた常時微動の統計的性質を逆に利用して,そのランダム成分を重ねあわせによって相殺することによって振動特性を得る手法を構築した.数学的には,理想的定常白色雑音の下ではランダム成分を相殺可能であることが示されているが,実際の常時微動は定常過程でも白色雑音でもないため,適用が不可能である.したがって,実測結果に基づいて得られる常時微動の統計的特性を反映させ,非定常性については時間領域の,振動数特性の偏りについては振動数領域のフィルター操作により一般的な場合に拡張を行うことで,高い精度での同定を実現する予定である.言いかえると,未知変数である外力に対してはそれを同定せず,統計的にランダム成分を除去することでシステム特性を捉えようとするものである.また,ERM(engen system realization method)を適用し,減衰を考慮した固有値分解の方法を試みた.
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