研究概要 |
本研究の目的は,トリクロロエチレン,トルエンなどの揮発性有機化合物(VOCs)や,農薬,PAHs(Polyaromatic Hydrocarbons)などの化学物質(ここでは,環境インパクト化学物質,Environmental Impact Chemicals;EICsと呼ぶ)の土壌内における挙動を測定し,物質移動モデルを構築して,その運命予測を行うことにある.本年度に得られた研究成果は以下の通りである. (1)EICsの土壌内遅延を測定するためのHPLCマイクロカラム法を提案し,2種類の農薬(simazine,asulam)と土壌(ローム土,まさ土)を用いて遅延係数を求めた結果,バッチ吸着試験から得られた値とほぼ一致することがわかった. (2)HPLCマイクロカラム法(パルス法)を改良して,さらに簡便・迅速に測定でき,使用する土壌,試料も少量ですむ,インパルス法を確立した.この方法で数種類のEICsの土壌内遅延を測定し,バッチ吸着試験法と比較したところ,インパルス法では非平衡吸着のため,遅延係数の値がバッチ法のものより低くなることが明らかになった. (3)不撹乱土壌試料を用いて,溶質の拡散を測定する方法を確立した.この方法では,不撹乱土壌カラムと,充填土壌(撹乱試料)カラムを接合することにより,溶質の土壌内拡散をより正確に測定することができる.また,溶質拡散を記述する新しいモデルを提案し,日本,アメリカ,デンマークの土壌を用いた実測データにより,モデルの評価を行った. (4)土壌内の液相,気相におけるEICsの拡散,移流分散を記述することのできる統一モデルを提案した.また,VOCs(気体)の吸着と遅延を,土壌水分の関数として表すモデルを提案し,Yolo loam(アメリカ)と3種類のVOCsを用いたデータにより評価した. (5)PAH(naphthalene)の広島ローム土への吸着・脱離と拡散を調べた結果,吸着・脱離過程におけるヒステリシスのため,汚染部分からのnaphthaleneの拡散は遅いが,非汚染部分へは急速に拡散していくことが明らかになった.
|