研究概要 |
固体中で原子の沈降を起こすためには100万gレベルの重力場を必要とするが、ゾルではコロイド粒子の原子量が大きいので10万g以下の重力場でも沈降が起こり、分子スケールの傾斜構造を形成することが可能である。また、ゾル・ゲル法によるガラスの製造では熔融法に比べて格段に低い焼成処理によって製造が可能である。本研究はゾル・ゲル法と重力場を組み合わせることによって分子スケールの傾斜構造を有するガラスを製作し、その物性を探ろうとするものである。 本研究では、任意の物質系で分子スケールの傾斜構造を持つバルクガラスを製造する技術を確立することを第一の目的とした。平成12年度は、40-80℃で温度を精密に制御でき、加速度方向と容器軸方向を一致させ最大3万gで連続運転できる恒温装置付高速遠心機を製作した。平成13年度はクラックの発生を防ぐためにTiO_2-SiO_2系ガラスで触媒、遠心処理条件を変えた実験を行い、加水分解時間と遠心処理の改良によってクラックがこれまでの半分以下の傾斜ガラスが得られた。さらに、微小領域の構造や光物性を調べるために購入したフーリエ変換赤外顕微装置などを用いてTiO_2-SiO_2傾斜ガラスを調べた。この結果、赤外吸収スペクトルから吸収端の連続的な変化が観察され、得られた傾斜ガラスは分子スケ-ルで連続的に傾斜していることが確認された。平成14年度はZrO_2-SiO_2,Al_2O_3-SiO_2,B_2O_3-SiO_2,V_2O_3-SiO_2系で実験を行い、ZrO_2-SiO_2はミリスケールで、Al_2O_3-SiO_2でミクロンスケールで傾斜構造を持つガラスをつくることができた。これらのガラスについても赤外吸収スペクトルから吸収端の連続的な変化が観察され、得られたガラスは分子スケールで傾斜していることが確認された。B_2O_3-SiO_2,V_2O_3-SiO_2系では混合ゾルを作製するところまで行ったが、時間切れのために傾斜ガラスを作製するまでには至らなかった。ゾル中のコロイド粒子の生成や沈降現象は物質に依存し、物質ごとに最適条件を探る必要があり、また、クラツクの発生を完全に防ぐことが難しいなど、バルクの傾斜ガラスを作製するにはさらなる研究が必要であるが、本研究でゾル・ゲル方と遠心力処理によって様々な系で分子スケールの傾斜ガラスや複合ガラスが得られることが明らかになったので、今後、機能を持った傾斜ガラスを創製することをめざして研究を続ける方針である。
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