研究概要 |
今年度は,塑性変形に伴うヤング率低下のメカニズムを把握するために,塑性変形に伴う金属板材の内部でのマイクロ的な機械特性の変化をナノインデンテーション試験を行うことによって,計測評価した.マイクロ的な機械特性をマクロ変形特性との相関を評価し,マクロな変形をより高精度にシミュレートし,それを反映した高精度曲げ加工制御システムの構築を行うことを目的とした. 具体的な研究成果は以下に示す. a)塑性変形による材料の結晶構造の変化を精密光学測定装置を用いて測定を行った.板材の曲げ実験を行い,試験片断面を顕微鏡観察し,画像処理で結晶粒の変形を評価した結果,最大約60%の結晶粒径の変化があり,ボイドの発生も確認された. b)塑性変形による材料特性の変化をさらに微視的な観点で計測評価するため,一つの結晶粒の粒界付近及び内部に対してナノインデンテーション試験で微小領域でも材料特性測定を行った.10%程度の塑性歪みを負荷した材料に対して,任意に選んだ結晶の粒界面付近での弾性係数を測定した.その結果,粒界に近づくにつれて,弾性係数が低下する傾向が見られた.これは粒界に堆積した転移が弾性変形範囲内でも移動する可動転位の存在によるものと考えられる.塑性歪みの増加に伴い,可動転位が増加するため,マクロ的に測定したヤング率が低下するものと推定できる. c)塑性変形後の材料を用いて,弾性範囲のみの引張試験を行った.その際,可動転位の影響を確認するために,可動転位を固着するような特殊な熱処理を行った試験片についても,試験を行った.その結果,熱処理を行った試験片とそうでない試験片の弾性係数が大きく異なり,可動転位による影響が明らかになった. d)ヤング率の塑性歪みに伴う変化をシミュレーションに取入れ,実機で使用されている金型と曲げ加工条件で曲げシミュレーションを行った.その結果,スプリングバックの予測が実験とほぼ一致し,従来のシミュレーションと比較して,高精度な加工プロセス予測が可能となった. e)実機での曲げ加工精度及び信頼性に影響するパラメータを総合的に評価を行った.実際に曲げ加工を行い,個々の影響因子による影響度合いを評価した.その結果をデータベース化し,有限要素法による加工シミュレーションデータベースと併用して,高精度曲げ加工制御システムの構築を行った.
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