著者らは生体インプラント材料として耐食性合金上にチタン金属をプラズマ溶射によって表面被覆し、生体親和性を付与した材料の開発を行って来たが、毒性はないにしても生体にとっては異物であり、安全性の面で問題が残る。そこで本研究では生物本来の機能を持つ多孔質ヒドロキシアパタイト(HAp)膜を表面に被覆した材料の開発を検討した。本研究のこれまでの結果からHAp粉末はプラズマ溶射のような高温雰囲気では部分的に分解し、熱的にも不安定であった。そこで本研究では金属基材にチタン金属を用い、HAp粉末をプラズマ溶射して、成形したHApコーテイング膜の化学組成、結晶性に及ぼす溶射条件と溶射後の熱処理方法について検討した。 以上の実験結果から以下の結論が得られた。(1)溶射電流が低い場合には、溶射後の熱処理により良好なHAp膜を得た。しかし、高溶射電流では毒性のCaOが生成し、実用に供さないことがわかった。(2)溶射後の熱処理によりコーテイング膜の結晶性が回復し、非結晶質リン酸カルシウムからHApへの転換が見られた。しかし、高電流溶射時に生成したCaOは熱処理では除去できなかった。(3)溶射時に溶射電流を初期には大きく、次第に減少させると、密着性は良好であり、表面ではCaOの生成が抑えられ理想的であるが、コーテイング膜が多孔性であるため内部のCaOが溶出する可能性を考慮する必要がある。(4)HApとβ-リン酸カルシウムの混合粉末の溶射による成膜によりCaOの抑制が期待されるが、混合比や溶射条件の詳細な検討が必要であった。
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