研究概要 |
「上部と下部,ならびに表層と中心部で材質が異なる円柱状のモデル人工歯根」の開発を行った。すなわち,円柱の上半分に高強度アルミナ層(A層),下半分の中心部に高強度アルミナ層(B層),表層に多孔質アパタイト層(C層)を配したモデル人工歯根を想定し,その機械的強度を最大にするための,成形手法・焼結手法の検討を行った。 成形体の作製には邪魔棒式濾過法を用いた。この方法では,(1)濾板上に成形用ダイスを設置し,(2)ダイスの中心部に邪魔棒を垂直に挿入する。(3)ダイスにヒドロキシアパタイト(以下HApと略記)スラリーを導入し,減圧濾過してHAp層を積層させた後,(4)邪魔棒を引き抜き,(5)アルミナスラリーを導入し,減圧濾過してアルミナ層を形成させる。スラリーの分散媒にはアセトンを用いた。濾過ケーク形成後,(6)減圧条件下で通気脱水し充分に脱液した後,(7)ダイスごと80℃で3h乾燥させた。次いで,(8)この乾燥ケークを1軸プレスで仮圧縮した後,(9)水圧プレスで125MPa,10min加圧成型した。(10)これを1000℃〜1200℃の範囲で1h焼成した。 焼結体のSEM観察および線走査分析から,HApとアルミナの境界面でのAl,Ca,P原子の拡散はほとんど無く,数μm程度の厚みで接合していることが分かった。焼結温度が高いほどアパタイト層のビッカース硬度,圧縮強度の値が向上した。HIP処理を施すことにより,これらの値はさらに改善され,1200℃,120MPaで処理した焼結体の圧縮強度は自然骨と同程度となった。HAp,アルミナの1:1混合粉末試料の熱分析およびX線回折測定を行った結果,微量の第3成分に起因するX線回折ピークと発熱ピークが確認されたが,これはαリン酸3カルシウム(αTCP)であることが明らかとなった。したがって,モデル人工歯根のHApとアルミナの境界面でも,HApが1部αTCPに変化しているものと考えられる。
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