人工ウイルスを構築するにあたって、カチオニックリポソームを用いる方法(リポフェクション法)が遺伝子キャリヤーとしてのベースになりうると考えられる。リポフェクション法は動物細胞へ効率的に遺伝子を導入できることが数多く報告されているが、多くの場合、血清存在下において導入効率が低下する。我々が以前に開発したDDABリピッドベシクルを用いる遺伝子導入法においても同様の問題があった。本年度は、この問題を克服することに焦点をおいて研究を行った。以前、DDABリピッドベシクルを用いる遺伝子導入法で、DNAと強く結合するタンパク質であるプロタミンを添加することで遺伝子導入効率が向上することを報告したが、今回はプロタミンを脂質修飾してDDABリピッドベシクルの脂質膜内に埋め込むことによって血清存在下においてもDNAとDDABリピッドベシクルの複合体が安定に存在できるようにすることを試みた。その結果、培養細胞において10%血清存在下でも導入効率の顕著な低下をひきおこさずに高い遺伝子導入効率を得ることに成功した。今回調製した遺伝子キャリヤーは市販されているリポフェクション試薬よりも優れた遺伝子導入効率を示した。鳥類胚を用いたin vivoでの遺伝子導入においても遺伝子の注入部位において高い遺伝子発現を示し、また複製欠損型ウイルスベクターによる遺伝子導入においても導入効率を劇的に改善することができた。次年度においては、導入遺伝子のゲノムへの組込み効率を向上させるために、改変型レトロウイルスインテグラーゼの利用などを検討する予定である。
|